dialogos

§2003.5.26§




「何年かまえ、わたしは写真の本を出したの」
とクリスティーヌがいった。
「フィルムのシークエンスで、わたしの希望したとおり、印刷がとてもよくて、フィルムの両側のハドメまで入れたの。説明はなくて写真だけ。わたしのキャリアを通じてもっとも優秀な作品と自負している写真を最初のページにおいたの。住所をくださればお送りするわ。部分の引き伸ばしで、黒人の胸から上だけの写真。ロゴのついたランニング、アスレチックなからだ、すごく力のはいった顔の表情、ばんざいをするように高く差しあげた手。ゴールのテープを切った瞬間みたいに、たとえば100メートルの」
僕が言葉をはさむのを期待したのか、
彼女は少々いわくありげに僕を見た。
「それで?」僕は訊いた。「どこが特別なの?」
「二番目の写真は」彼女が言った。
「原寸のまま。左側には火星人みたいな服装をした警察官がいる。顔の部分が風防ガラスになったヘルメットをかぶっていて、腿まであるブーツをはいて、カービン銃をかまえている。ヘルメットの中の獰猛な顔。黒人は両手をあげて逃げている。だけどそのときは、もう死んでいた」
それだけ言うと、彼女は食べつづけた。
「それからどうなったの」僕は言った。「終わりまで話して」
「私の本の題は『南アフリカ』だったの。さっき話した最初の写真ね、その下にだけ、説明をつけた。
Mefiezvous des morceaux choisis
(「抜粋集(アンソロジー)」にはご用心)
彼女はそこでふと顔をしかめてから言った。

「抜粋だけではだめなのよ」


アントニオ・タブッキ「インド夜想曲」


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