dialogos

§2004.6.5§




その日の夕方、妖精は若者のほうに近寄って、
白い手をさしのべて小さな声で言った。
「さようなら!」
しかし、逃げようとする彼女を若者はつかまえて、
どんなに愛しているか、どんなに幸福を夢みているか、
どんなに不安にさいなまれているかを、
しどろもどろに、つっかえつっかえかきくどいた。
妖精は蒼(あお)ざめた。
彼女は力をこめて手をふりほどくと背を向けて、
遠くを見つめながらじっと考えこんだ。
やがて突然
「あなたのこと好きよ」
と、若者の目をのぞきこんで言った。
「あなたっていい人だから好きなの。
あたしのことを好いてくれるから好きなの。
愛って何だか知りたいから好きなの。
でも、あたしはあなたを信用できない。
男の人に全てを捧げると不幸になるからいやなの」


(篠田知和基編訳)「ふしぎな愛の物語(フランス民話より)」


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