蚕が老いて繭になり、繭がほどけて蝶になり、蝶が卵をうむのをみて、私の知識は完成した。それはまことに不可思議のなぞの環であった。私は常にかような子供らしい驚嘆をもって自分の周囲を眺めたいと思う。人びとは多くのことを見なれるにつけただそれが見なれたことであるというばかりにそのままに見すごしてしまうのであるけれども思えば年ごとの春に萌え出す木の芽は年ごとにあらたに我らを驚かすべきであったであろう、それはもし知らないというならば、我々はこの小さな繭につつまれたほどのわずかのことすら知らないのであるゆえに。