§2002.4.25§
まだあげ初(そ)めし前髪の
林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛(はなぐし)の
花ある君と思いけり
やさしく白き手をのべて
林檎をわれにあたへしは
薄紅(うすくれない)の秋の實(み)に
人こひ初めしはじめなり
わがこゝろなきためいきの
その髪の毛にかかるとき
たのしき戀の盃(さかずき)を
君が情(なさけ)に酌みしかな
林檎畑の樹(こ)の下(した)に
おのづからなる細道は
誰(た)が踏みそめしかたみぞと
問ひたまふこそこひしけれ
島崎藤村「初戀」
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