水の歴史
§2002.10.24§
私が生まれたときにはもう、
原爆が落ちていて、夢の島があって、
核兵器がたくさん作られていた。
学校には行かなくてはならなかったし、
そのあとは就職しなければならなかった。
その間に殺人やいろいろの生き物の破壊がたくさん起こっていても、
私にはなすすべが何もなかった。
今もない。
私たちの住む惑星の、
こういう状況からだったのか(今では分からなくなってしまったけれど)、
私は二十歳前後の頃まで、
宇宙に旅に出て、そのまま帰らないことを強く望んでいた。
そしてその頃の気持ちに、
ディプトリーの生い立ちや思想、
とくにこの短編はかなり直球に切り込んできたのだった。
この短編は、
地球では非常に醜いとされる、宇宙飛行士の女性が辿る旅、
疎外感と孤独と狂気と愛が混じった、とても切ない物語だ。
残酷さと見たこともない風景や状況、美しさに満ちている。
私もどこかとても遠くの、
放射能の満ちた青くない空の下で、
何からも自由になって死んでしまいたかった。
今、私は思春期が終わったせいなのか、
長く生きてすれてしまったせいなのか、
失いたくない人たちができてしまったせいなのか分からないけれど、
昔のような精神的な錯乱があまりなくなって、
同時にあの飢えのような激しい未知への渇望も、
かなりなくなってしまった。
かつては共感だったけど、今、彼女の作品は、
かつて私が感じた激しい変な欲望を復活させる。
特にこの「たおやかな狂える手に」と、
「スロー・ミュージック」、
「星々の荒野から」がとても好きだ。
タカノ綾
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